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雨が降っている。ただ、それしかわからない。
何故か見えない左目は使い物にならず、右目と聴覚のみでその場の景色を理解した。
だが、それ以外わからない。
否、それ以外を知らない。
だから彼は、何故自分がここにいるのか、何故体が動かないのか、何も知らなかった。
―…死ぬのかな、オレ
重く暗い雲から落ちる雨粒は止処なく地を叩く。
体も冷えきっているのだろうか、既に感覚がない。
―…そっか…死ぬのか
真っ白な頭で彼は考えた。
―…別に死んでも、悔しくもない
次第に意識は薄れていき、世界がぼやける。
そのまま地に飲まれていきそうだった。
不意に、足音が聞こえた。
それはこちらに近付いてきているようで、雨の中で砂利を踏む音がやけに目立つ。
そして、足音が止まった。
見える右目を動かして視野を定めれば、雨空に映える白いかおと漆黒の髪が見えた。
少女は雨に打たれる事も気にせず自分を見つめてる。
そこで、彼の思考は途切れた。
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