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「……杖代わりに使ってあげるわよ」
私も少し酔ったのかもしれない。
素直に、その腕に手を絡ませた。
実は人が恋しいのかな、と思う。
部長という立場を重んじて私を上品に扱ってくれる川崎さんには悪いけれど、それは窮屈極まりないモノだ。
1人の女として、私はただ誰かに甘えたい。
坂井のたくましい腕が心地よくて、つい寄りかかりそうになったけれど、坂井が年下だという事を思い出してハッとした。
「坂井!もう1軒行くわよ!」
「え、まだ飲むの?」
「当然っ!
あんたに奢ってもらったなんて気持ち悪いし。次は私が出すわ!」
律儀過ぎ、と笑う坂井の腕を引いて、私は楓の向かい側に位置するテナントの2階へ坂井を強制連行した。
***
小さな照明が斜め上から当てられたドアを抜けると、カウンターでグラスを拭いていたマスターが顔を上げた。
「あらー、葉山ちゃん、いらっしゃい。
久しぶりじゃない」
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