コピーとスパイ

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サンプル縫製をしてくれる人は、奈々さん1人しかいない。 定例会議まで後2週間。 その次の会議だと、クリスマス前の売り出しには間に合わない。 「……もうっ、何落ち着いてんのよ! 今日中に切らなきゃいけないんじゃないっ!」 確か、水野さんは彼氏とデートだと言って一番早く帰った。誰か残業を手伝ってくれる子はいないか、と考えたけれど、部署の最終チェックをしたのは私だ。 誰も残っていないのは分かりきっていた。 「っていうか、あんた本当にやる気あるの? 今度の会議に間に合わなかったらボツなのよ!? もっと焦りなさいよ!」 「悪いと思ってますって。 色々あるんで忘れてたんすよ」 はあ? 頼まれた雑用を忘れたと言うならまだしも。担当を複数抱えていると言うならまだしも。忘れるか、フツー。 色々あるって、何があるのよ。と思ったのに、この時は深く考えなかった。 「あんた適当すぎるわよ」
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