コピーとスパイ

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私ははしゃいでいた。うちの会社では前例のない下着を産みだそうとしている冒険もワクワクしたし、何より、やる気の感じられなかった坂井からそんな言葉を聞けるなんて、上司として本当に嬉しかった。 *** 「えぇぇええっ? 何よ、ソレ。いつ払ったのよ!?」 私は財布を片手に思わず大きな声を上げた。 レジ横に設置されている水槽の中では、私の大声など気にもせず、魚達がユラユラと水中を漂っている。 「さっきトイレに行った時。 つーか、奢るって言ったでしょ? はいはい、財布は片付けて」 「ちょっ……!」 何かを言おうにも坂井に背を押され、店員の「ありがとうございましたー」と、よく通る声を背中で聞いた。 「こっちはそんなつもりじゃなかったのに」 「俺はそんなつもりでした」 坂井は、ピシャンと後ろ手で引き戸を閉めた。
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