コピーとスパイ

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カッコわる……。 私は、坂井が先に支払いを済ませていた事など露知らず、払う気満々でレジに向かったら「お代は頂いてます」だ。 「まぁ、いいじゃない。 俺が誘ったんだから」 未だ、楓の前で足を地面に縫いつけられていた私は、そっと背中に触れた坂井の後押しで、ようやく足を踏み出した。 いや、私がカッコ悪いんじゃなくて。 坂井がカッコいいのかも。 私は見栄を張る男は好きじゃない。 俺が出すよってカッコつけて、私を押し退けて強引に支払いを済ませて、そんでもって奢ってやったぞって顔をする男は大嫌いだ。そんな男に貸しを作りたくないから本当に奢ってもらいたくないのに、「いいから、いいから」って言う奴。 ハリセンがあれば、絶対、殴る。 「リカさん、ほら」 街路灯の下、坂井が腕を突き出した。 「掴まってないとまた転ぶんじゃない?」
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