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もう指先の血は止まっている。
けれど、まだそこはじんじんと熱を持っている。
ハサミの動きを追っていた目線をふと上げると、生地を切り進む坂井が少しだけこちらに近付いていた。
あんなこと、誰にでもすんのかしら。
坂井の顔を見つめつつ、ぼんやり思っていると、生地を切り終えたらしいハサミの音が、ジョキンと一際大きく響いた。
「何?」
何を考えているのか分からない顔で、坂井が私を見た。
「は?何って何が?」
「だって今、俺のことずっと見てたでしょ?だから、何?」
こういうことを訊けるなんて、坂井は自分に自信を持っているように思えてしまう。
「別に、あんたを見てた訳じゃないわよ!
ぼーっとしてたの!
あんたが私の目の前に居ただけでしょ?」
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