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私はごまかすように大きな声をあげて、切られた生地をスルスルと手元に引き寄せた。
「ねぇリカさん」
「何よ?」
立ち上がって半分に折り畳んだばかりの生地をバサンと扇ぐと、坂井は垂れた生地の下端を掴んでそれを持ち上げた。
手伝ってくれるんだろうと思い、油断した。
生地の両端を揃える為に、私の手と坂井の手が空中で合わさった時、坂井は私の手を掴んだのだ。
「さっき、欲情してなかった?」
「な……」
見抜かれていたのか、と思った瞬間、顔が紅潮した。
「し、してないわよ!」
「本当に?」
坂井の落ち着いた声が、胸の奥まで浸透してくるようだ。
「何でそんなこと訊くのよ!」
「んー、何か……、俺だけリカさんに欲情したことがあるって、負けたみたいで悔しいじゃないすか」
「……は?」
残業したときの話だろう。
見抜かれていた訳では無さそうだ。
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