コピーとスパイ

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*** 数日後のことだった。 茜色に染まった空を眺めつつ、ブラインドを閉めた。 時刻はまだ17時半だ。 定時に帰れるなんて嬉しい。 ロッカーに向かっていると、廊下で坂井と出くわした。 「リカさん」 「何よ」 坂井の後ろにある曲がり角は、階段へ繋がる通路だ。 帰宅モードに入った社員が、まばらにそこへ向かっている。 「上山さんからパターン貰ってきたんですけど」 坂井は丸めた紙を私に見せた。 「だから?」 「生地の裁断ってどうすればいいの?」 「明日、水野さんに教えてもらったら?」 「間に合うかな。 サンプル縫いの予約、明日しか空いてないって奈々さんに言われたんだけど」 「えぇっ!?明日……?」 「そう、明日」 坂井は悠然と頷いた。
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