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晶子が「座敷わらし」のように川島邸に棲みついてから一年が経とうとしていた。晶子の通う私立桜花高校は春休みに入っていた。晶子はその夜、リビングルームのソファーで眠っていた。
ふと、暗闇の中で異様な気配を感じて、晶子は目を覚ました。続いて、窓ガラスが何かで引き裂かれるような音がした。そしてガラス戸がスルスルと開いた。部屋は暗かったが、暗視能力のある晶子には忍び込む二人の男がはっきり見えた。がっしりした体躯の大柄の男と小男であった。二人の手にはそれぞれ拳銃が握られていた。拳銃にトラウマのある晶子はそれを見て怯えた。
「お前は二階へ行け。俺は一階の寝室を襲う」
そう命令した大柄な男がボスだと晶子は思った。
「どうしても、皆殺しなんすか」
「それが俺達の仕事だ。情けは命取りになる。いいな」
「わかりやした」
足音を忍ばせて、男たちは遠ざかって行った。間もなく、プシュッ、プシュッという空気を切り裂くような音の後、かすかな断末魔の悲鳴を聞いて晶子は緊張した。賊がこの家の住人を殺害しているのだ。晶子はそう確信したがどうすることもできなかった。それでも、晶子は気持ちを奮い立たせてソファーから立ち上がった。一階寝室から出てきたボスは、天窓からの薄明かりに映える晶子のシルエットを見て一瞬たじろいだ。
「何、そこにも人がいたのか?」
そう言い終わらないうちに、ボスは晶子めがけてサイレンサー装備の拳銃を発射した。プシュッという鋭い音と同時に、晶子の耳元を何かがかすめた。慌てたボスの狙いは外れ、弾丸は晶子をそれたのだ。次の瞬間、晶子はボスの眼前でふわりと姿を消した。ボスの驚きは恐怖に変わった。
「幽霊か?」
晶子の存在に気づかず、二階から降りてきた小男もボスの幽霊かのことばを耳にして顔をこわばらせた。
「兄貴、幽霊って何すか?上には誰もいなかったす。早くずらかりやしょう」
小男が言った。ボスはうなずいて、出口へ急げというなり、我先にと玄関のほうへ走り出した。透明人間に変身したまま、晶子はただちに彼らの後を追った。男たちは川島邸から一区画先の角に止めてあった黒塗りの車に乗り込んだ。晶子はそのナンバープレートを記憶した。そして、家族のことが気になり川島邸に急いで戻った。
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