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目が覚めたとき、目の前に移る世界が現実だとは思えなかった。大方まだ悪夢を見ているのだろうとすら感じた。しかし、この体の節々に走る鈍い痛みや、開けっ放しの目に入ってきた"灰色の何か"が、眼球に触れて鋭い痛みが走ったことから、ここは現実なのだろうと確信する。
「……夢の様だよ、悪い意味で」
仰向けに寝ている体勢から起き上がろうとするが、力が入らない。結局寝たままの姿勢で、からからに乾いた喉から、得意の皮肉を眼前に広がる光景に向けて投げかける。それくらいしか、この光景に対して俺が出来ることは無かった。
あたり一面、崩れたもしくは崩れかけた建物で埋め尽くされ、道路はひび割れ、衝突したらしい車が何台も積み重なっている山が、近くに見えるだけで三つはある。
極めつけにこの世紀末のような風景を更におかしくさせているものが、空から降り続いている、先ほど目の中に入ってきた"灰色の何か"だ。なんとかそれに手を伸ばして、掌に載せて、目の前に運んでくる。
「雪、か?」
確かに雪の結晶のような形をしているが、溶ける様子もなく、冷たいとも熱いとも感じない。ためしに握りつぶしてみると、埃か何かの様に粉々になって、タンポポの綿毛の様に風に乗って行った。
「いったい、なんなんだ……何が起きたんだ。というより、なんで誰もいないんだよ」
街中と呼んでいいのかあやふやな風景の片隅で、なんとか踏ん張って体を起こし、辺りを見渡しても、人っ子一人見当たらない。声もしない。ただただ"灰色の雪"が、降ってくるだけである。
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