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「それで、あんた名前は?」
まだ人間なのかも定かではないが(人間じゃなきゃなんだ?)、いつまでも呼び方が決まらないというのも物持ちが悪い。掌を握ったり閉じたりしている彼女へ向けて、先程の疑問に答えずに、逆に投げかけた。
「な、まえ?」
たどたどしいが、しっかりと聞き取ったらしく、顎に手を当てて長考している。……なんで名前で長考するんだ?
「まさかあんたっ――――――」
「わかん、ない……いろいろわかんない……わすれた」
いやな予感は、こういうところで当たるものなのだと、意表を突かれながらも感心していた。
いくつかの問答の後、俺はため息を付かずにはいられなかった。それほどまでに、彼女の状態は悲劇的だったのである。
「つまり、あんたは記憶がほとんど無く、自分が何者であるかすらもわからない……ということだな」
更に、頭痛の種となっていることが、こういった問いに対する彼女の答えである。
「記憶、ない……けど、私は天使」
たどたどしい、無垢な少年の様な口調で"天使"などと言うのである。天使、別に否定したいわけではない。なんなら肯定したっていいとも思える。空から降ってきたことを考えると、本当に何か人間ではない何かなのだろう。
しかし、天使を名乗るだけで何も見せてこないとなると、ただの頭のおかしい女の子になってしまうのであり、俺の中でもそういう位置づけが完了しそうである。
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