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その平和な男が見ていた夢は、激動を過ごした少年時代の夢だった。
…生き物の生死という価値観が、あやふやになった。
…ヒトの身で在りながら、ヒトを殺さねばならない時があった。
…国ごと大切な友を失い、悲嘆に明け暮れる日々があった。
…突如大衆の命と未来を背負わされ、悩み続けた毎日があった。
…己の存在を丸ごと封印し、全ての自由を自らの意思で放棄した事があった。
………それも全て、今は遠き過去の事。
その事実を思い返し、不意に男はある事実に気が付いた。
「………そっか。
あれから…もう5年が経つのか…。
…懐かしいのも当然だな。うん」
呟く声も、記憶の頃と比べると大分低く変化した。
その変化を如実に感じる男の表情は、穏やかな笑顔。
…全てが満たされた者が浮かべる笑みだった。
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