第1話

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夏の暑さが残る8月後半の球場。IN鎌ヶ谷。 俺達、千葉ロッテマリーンズは劣勢になっていた。スコア11-2。 「あー・・・今日無事に帰れるのかな」 甲辺先輩がベンチにもたれながらけだるそうに話す。以前、1軍の試合であの和久井投手からホームランを放った意外性ある選手だ。・・・あまりにもはしゃぎすぎて乱闘騒ぎになったけど。 「まったくですね、浦和の寮に遺書を置いとくべきでした」 この調子じゃ全体での居残り練習は避けられないな。9回裏2死1塁、ん?まえもこんな場面があった気が。 「早崎、代打でいくぞ」 永島コーチに促される。まあそろそろくるかなと思ってたけど。 「打つなよ早崎」 「甲辺さん、自分がでれそうにないからってその発言はやめてください」 へいへーい、けらけら笑いながら甲辺先輩はそっぽをむいてしまう。おとといの試合で3打数2三振じゃ出番もないよなあ。 俺はプロテクターを腕・足につけ、ヘルメットをかぶり、バットを右肩に担ぎながらバッターボックスに向かう。育成選手である為、打席数は非常に少ないが・・・打率は2、97。かなりのハイアベレージだと我ながら思う。 昨日”あれ”があったから体がダルイし、相手ピッチャー完投ペースだし、どうせ死刑執行はまぬがれないし、・・・あまり本気で狙わなくてもいいかな? 「早崎」 選手交代を主審に告げて戻ってきてた蒼山監督に声をかけられる。 「お前・・・今、手を抜こうなどと考えていなかったか?」 「え!?い、いや!?べ、別に考えてませんよ!!ええ!!」 何この人読心術使えんの!? 「いい覚悟してんなあ?背番号167」 「は、ははっ・・・そうっすねえ」 やべえ!!死ぬっ!! 「お前にチャンスをやろう。とてもいいチャンスを」 「え?」 「この打席、ヒットを打てばお前の支配下登録の話を早く進めよう。・・・もし打てなかったら・・・・」 「う、打てなかったら?」 「生きて・・・」 「生きて・・・?」 生きて寮に帰れると思うなよ? 「っしゃあああああああああ!!う、う、打つぞおおおおおおおお!!」 俺、何やってんだろう?
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