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玄関のドアの覗き穴から外を覗いていると、後ろからこつんと頭を叩かれた。
「おーまーえー。何やってんだよ彩加(あやか)」
ドアにぶつけたおでこを押さえ、私は頬を膨らませて振り返った。
「痛いよ、お兄ちゃんっ」
背後には、兄の由紀也(ゆきや)が私以上の仏頂面で立っていた。
「彩加お前……それ、ストーカーっていうんだぞ。犯罪だぞ」
「なっ……何よ、別に私は……。ただ、出るタイミングを計ってただけで」
真っ赤になってモゴモゴ言い訳すると、お兄ちゃんはふん、と鼻で笑った。
「さっきからどんだけドアの前で張ってんだよ。そろそろ行かないと遅刻すんぞっ」
私を押しのけ、ガチャッと勢いよくドアを開ける。
すると…。
隣の家の玄関から、制服姿の高校生が出て来るところだった。
……それは、私が30分間、ドアの前で待ちに待った姿……。
「おー、おはよっす」
由紀也お兄ちゃんが呑気に手を上げて声をかける。
「おはよ、奈良崎(ならさき)兄妹。今日は遅いじゃん、2人とも」
相良圭吾(さがら・けいご)先輩が白い歯を見せ、爽やかに応えた。
……さっ。
さがらせんぱい……っ。
わわわわわっ。
私は思わずお兄ちゃんの陰に隠れた。
――こんなの、不意打ちだってば――。
綿密に立てた作戦では、相楽先輩が家から出て行くのを確認して後ろから忍び寄って声をかけるはずだったのに……。
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