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歌が聞こえる。
清く、澄んだ男性の声。
それに合わせた、少し頼りない声。
静かに響くレクイエム。
数分それは続き、静寂に帰す。
「びっくりしたねー」
「そうだね、びっくりした」
頼りない声が尋ね、男が返す。
「言ったとおりになったね」
「旅をしているからね、空を見れば分かるよ」
「空ねー」
間延びした声から、見上げたのであろうことが容易に推測できる。
しばらくの沈黙を経て、そしてバイクのエンジン音が響いた。
「もう一回振り返ったら消えてないかな?」
「消えてないだろうね」
「人、いるかな?」
「いたんだろうね」
男は声のトーンを変えることなく答えた。
「じゃあ、そろそろ出るよ」
「はーい」
爆音と共に水飛沫を上げ、バイクは走り出した。
「雨、嫌いだなぁ、濡れるし」
「そうだね、嫌いだよ、濡れるし」
「目をつむって、また開ければ晴れてないかな?」
「晴れてないだろうね」
「そっかぁ」
「そうだね、今までなかったし、これからもないよ」
二人は静かに、うるさいバイクに揺れる。
「雨は嫌いだ、嫌いだよ」
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