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「ごめん、待たせたね」
雑踏の中から駆け寄ってきたのは、黒いコートを羽織った神谷さんだった。
「いいえ、私も今来たところです」
笑って答えると、神谷さんは何故か苦笑した。
不思議に思って見ていると、神谷さんは眉を下げて「ごめん」と言ってから、その理由を教えてくれた。
「……鼻、ちょっと赤かったから。寒かったんだろうなと思って」
「! や、えっと、これは……!」
吐く息の白さに気づくことはできても、鼻の赤さまでは考えていなかった。
恥ずかしい指摘にしどろもどろになっている私に、神谷さんは笑いながら言った。
「女性を待たせるなんて! とか言って、怒ってもいいところだよ?」
「そ、そんなこと言いません!」
「ははは、羽村さんらしいね」
明るく笑った神谷さんがそっと私の背中に手を回す。
「冷えただろうし、早くお店で暖まろう」と促されて、私たちは夜の街を歩き始めた。
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