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水曜日
私は彼に会いに行くことにした。
今後のことも話さないといけないし、少しでもこの不安を打ち明けないと、パンクしそうだった。
彼が仕事から帰ると、一緒にご飯を食べながら話をした。
「正直さ、俺は嬉しさ7割って感じだよ?」
「そうなんだ…」
私は不安9割だよ…。でも彼は良い家族には恵まれてなくて、両親は中学生のときに離婚していた。
兄弟も、お兄さんがいるみたいだけど、最悪に仲が悪いらしい。
転校も経験して、淋しい思いをしたみたいだ。
だから暖かい家庭に飢えているというか、家族の愛情に飢えていた。
「結香(ゆか)ちゃんには負担かけちゃうけどさ…産んで欲しいって思ってるんだ…」
私だって、せっかく宿した命を育んであげたい気持ちはあるけど…。
「俺がもっとしっかりしてたらな…」
違うのに…。私が子どもだからだよ。私がもっと大人だったら、もっとすんなりいくのに…。
「結香ちゃんは…どう思ってる?正直に言って?産みたくないなら諦めるし、責めたりしないから…」
「私は…何も考えなくて良いなら、産んであげたい」
それが正直な気持ちだ。
「そっか…」
彼はそう言うと、自分の幼い頃のことを話し始めた。
「5歳位だったかな?妹か弟かが産まれるはずだったんだよね…」
どちらかは分からないけど、下の子どもが産まれるはずだった…そう、はずだった。
「妊娠7カ月か、8カ月位かな?もうお腹も大きくなってきてた頃にダメになっちゃってさ…」
悲しい、幼い頃の記憶。
「小さいながらに、凄く悲しかったし、凄く泣いた記憶ある…だからさ、なるべく中絶はしたくないって思ってたからさ…」
それを聞いて、私も思い出したことがあった。
「私もさ、私より先にもう一人、いるはずだったの」
それは小さい頃に、母親から聞いた話だった。
私は2番目の子どもで、兄か姉がいるはずだった。
私達の両親は、どちらも同じ経験をしていたのだ。
「そっか…そしたらさ、許してくれるんじゃないかな?」
彼にそう言われて、私は少し元気が出た。
そうだ。一度悲しい思いをしているなら…。
「病院、一緒に行こうね」
私は涙ながらに、笑って言った。
「うん」
彼は優しく微笑んでくれた。
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