序章‐LOST MEMORY‐

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 私は誰だろうか。  そんな簡単な事が……今の私にはわからない。  気が付けば、白く清潔な、そしてさびしい部屋の中にいた。  ここが病院なのは分かった分、なんで病院なんかにいるのかわからずに不気味になった。  ひょっとして私は、若年性アルツハイマーなのだろうか。  じゃあ、なんでアルツハイマーなどと言う言葉が出てくるのか。 『―――みっなさ~ん! おはようございま~す♪  都市情報管制型AIである、この私「GABRIEL(ガブリエル)」ちゃんが、4月1日午前8時をお知らせするよ~!』  いつもの、妙にきゃんきゃんして、にもかかわらず耳障りにならない不自然な声が聞こえる。  いつもの、あのAIの声だ。  いつもの、街頭テレビを占拠する、バーチャルアイドルの声だ。  不思議な事に、私はこの声がいつもの物だと理解していた。  そのいつもが思い出せないのに。 「……気持ち悪い。」  本当に気分が悪くなりそうだった。  病院だからだとか、病室の中だとか、そういう事を差し引いても。  自然に思い出せることはたくさんあるのに、なぜか自分が知りたいことが出てこない。
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