序章‐LOST MEMORY‐

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 私は誰? 誰なの?  なんで病院で寝てたの? このパジャマの売っているメーカーはわかるのに、なんで買った場所が分からないの?  なんで今が2078年なのはわかるのに、私の誕生日が分からないの?  スリーサイズ、身長、体重、全部わかるのに、自分の年齢はわからない。  なんで……なんでこの国の政治家は思い出せて、家族の顔が分からないの!?  思い出せない……なにも、私には何もない!  どうでもいい事ならなんでも思い出せるのに……!  重要やことは、何一つ思い出せない……ッ!! 「……ふ、はは……」  そう思うだけで、笑えてくる。  私はどうでもいいことはきちんと覚えているのに、重要な事、知りたいこと、知らなければいけないことが思い出せない。 「はは……あははははははは!」  ……笑える…!  なんて中途半端なんだろうか。  ああ、いっそきれいさっぱり忘れて、本当介護が必要な状態まで戻った方が幸せだ。 「はははははは……ははは……う……うぅぅ……」  そう言う人には悪いとは思うけど……… 「うぅ……うぅぅ……う………ぐすっ………」  ………全部忘れた方が楽だった。  だって、悲しいと言う言葉の意味も忘れられる。
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