531人が本棚に入れています
本棚に追加
/26ページ
昼休み。
私は図書室の扉の前に立ち、ゆっくりと深呼吸をした。
引き戸に指をかけ、すぐに手を引っ込める。
この動きを、もう何十回も繰り返している。
――何だろう。先輩の話って……。
昨日の夜から頭の中でずっとぐるぐる回り続けている疑問を、もう一度自分に問いかける。
想定できるパターンとしては……。
①実は俺、佐伯しほりちゃんの事、好きなんだよね。あの子、彼氏とかいるのかな?
これが一番、スタンダードでしょ。
つぎは…。
②実は俺の友達が、妹ちゃんの事好きでさ。これ、読んであげてくれない?(ラブレターを差し出す)
うん、これもありがち。
あとは……。
③ 実は、バスケ部のメンバーが足りなくて…。ぜひ、君に入部してほしいんだ!!
④ 君のために、祈りを捧げたいんだけど、手相、見せてくれる?
わたしは眉間にしわを寄せ、げんこつを額に当てた。
――考えれば考えるほどおかしな方向に――。
①はちょっと辛すぎるし……出来ればいっそ、③か④あたりで手を打ってほしい。
②は……まあ、ないだろうな。
私のことを好きになるなんて、よほどの物好きじゃないと――。
そこまで考えたところで、ポンッと音を立てて田辺の顔が浮かんだ。
慌てて頭をぶんぶんする。
――今朝のあれは、現実……?
あの時はとにかくびっくりして、パニックになって、頭が真っ白だったけど――。
後で冷静になって考えてみたら、――無性にむかっ腹が立ってきた。
だって、……ファーストキスだからね??
合意を得ずに奪われるとか、――すっごく、悔しいんですけど!!!
しかも、どさくさにまぎれて、二回もだよ??
ファーストだけじゃ飽き足らず、セカンドまで!
もう、腹が立って腹が立って……。
「……」
思い出すと、顔が熱くなる。
この熱が、怒りなのか、恥ずかしさなのか……それとも、ときめきなのか。
私には、どうしても分からなかった。
最初のコメントを投稿しよう!