-3-

2/11
531人が本棚に入れています
本棚に追加
/26ページ
 昼休み。  私は図書室の扉の前に立ち、ゆっくりと深呼吸をした。  引き戸に指をかけ、すぐに手を引っ込める。  この動きを、もう何十回も繰り返している。  ――何だろう。先輩の話って……。  昨日の夜から頭の中でずっとぐるぐる回り続けている疑問を、もう一度自分に問いかける。  想定できるパターンとしては……。 ①実は俺、佐伯しほりちゃんの事、好きなんだよね。あの子、彼氏とかいるのかな?  これが一番、スタンダードでしょ。  つぎは…。 ②実は俺の友達が、妹ちゃんの事好きでさ。これ、読んであげてくれない?(ラブレターを差し出す)  うん、これもありがち。  あとは……。 ③ 実は、バスケ部のメンバーが足りなくて…。ぜひ、君に入部してほしいんだ!! ④ 君のために、祈りを捧げたいんだけど、手相、見せてくれる?  わたしは眉間にしわを寄せ、げんこつを額に当てた。  ――考えれば考えるほどおかしな方向に――。  ①はちょっと辛すぎるし……出来ればいっそ、③か④あたりで手を打ってほしい。  ②は……まあ、ないだろうな。  私のことを好きになるなんて、よほどの物好きじゃないと――。  そこまで考えたところで、ポンッと音を立てて田辺の顔が浮かんだ。  慌てて頭をぶんぶんする。  ――今朝のあれは、現実……?  あの時はとにかくびっくりして、パニックになって、頭が真っ白だったけど――。  後で冷静になって考えてみたら、――無性にむかっ腹が立ってきた。  だって、……ファーストキスだからね??  合意を得ずに奪われるとか、――すっごく、悔しいんですけど!!!  しかも、どさくさにまぎれて、二回もだよ??  ファーストだけじゃ飽き足らず、セカンドまで!  もう、腹が立って腹が立って……。 「……」  思い出すと、顔が熱くなる。  この熱が、怒りなのか、恥ずかしさなのか……それとも、ときめきなのか。  私には、どうしても分からなかった。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!