エピローグ

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「……それで?」  春山先生が、教壇から静かに私を見下ろして言った。  てへへ、と笑ったけれど、やはり先生は眉ひとつ動かさず、綺麗な目でこちらをじっと見ている。 「言いわけ、あるなら聞くけど」  私は苦い顔で自分の手元を見つめた。  先週の、小テストの答案。点数は――3点だった。  ちらり、と隣の席に目をやる。  そこには田辺がわたしと同じようにシュンとして、背中を丸めていた。  放課後。  小テストのことで教室に残された私たち2人は、春山先生の氷のような冷静な問いかけに身を縮めていた。 「あのさ」  先生が首を傾げる。 「ただの小テストだし、……点数はともかくとして、普通なら俺、説教なんかしないんだけど。 お前ら、間違ってるところもまったく同じ答え、書いてあるんだよね。 いくら仲良しでもあり得ないと思うんだけど」 「……えっ」  私は驚いて隣の田辺の答案をひったくった。  ……3点。 「ちょっと田辺!なにバレバレなカンニングしてんのよおっ!」 「バイト忙しくて全く勉強が出来なかったんだよ、しょうがないだろお」 「だからって……カンニング、反対っ!!」 「てかさあ、お前、3点て。せめてもうちょっと頑張ろうぜ。俺まで赤点に巻き込むなよなあ」 「かっ、勝手にひとの答え、見といて……っ」 「いやあ、3点はないわ」 「ちょっとおっ!」 「はいはい。口喧嘩はおしまい」  春山先生の声で、私たちは口を閉ざした。 「当然だけど、二人には再テストするから」  私たちが同時にええーーーー。というと、春山先生は穏やかな声で、 「ここ、大事なとこだからさ。丸暗記しとけば後が楽だから。頑張ろうね」  あれ。……なんか、いつもより優しい……? 「三日後にやるから。今度赤点だったら範囲をプラス4ページに広げてまた三日後、ね」  そしてキラリと笑顔を放ち、颯爽と立ち上がる。 「……」  私と田辺はがっくりと机に伏せた。  ――やはりこのひとは……全身全霊、ドSだった…。
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