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私は、走った事で極限まで上がった心拍数を下げるため、しばらくドアの外で呼吸を整えた。
……あれ。
息は治まったけど、心臓の音は全然、治まらない。
もしかして……。このドキドキは、走ってきたからじゃない……のかな。
私はとりあえず、もう一度教室を覗き込んでみた。
広い背中は、じっと動かない。
しばらく見つめていると、さらに私の鼓動が速くなった。
自分の胸に両手を当てて、心臓の音を押さえようと深呼吸を繰り返す。
こんな調子じゃ、……来週からあいつの隣の席で、いったいどうやって過ごせばいいのか……。
ため息をついてから顔を上げると、目の前に田辺が立っていた。
「うわっ!!」
驚きのあまりのけぞって足を滑らせ、後ろに倒れて尻もちをつく。
「いったぁ……」
4つん這いになってお尻の痛みを逃していると、私の目の前に、田辺が座り込んだ。
「大丈夫かよ」
「大丈夫じゃ……ないよ……いてて……」
田辺は痛みに顔を歪める私をじっと見ていたが、スッと手を伸ばし、頬をぐにっと引っ張った。
「いでっ!!……い、いだいっ!!――なによぉ、いきなり!」
涙が出そうなくらい痛くて、一瞬でお尻の痛みが消え去る。
「いや……まぼろしかと思って」
「本物だよ、決まってるじゃんっ」
「だってお前……カナダ人は?」
「……それは……って相良先輩はカナダ人じゃないし。
なんでそうやって、なんでもかんでも、だんだん変わってきちゃうのよっ」
私はよいしょ、と立ち上がり、スカートをぱっぱっと払った。
「キャンプファイア、教室で一人で見ようと思ったのっ。
もうすぐ点火だってよ」
「ああ」
「田辺も一人で見るつもりだったの?」
「まあ……うん」
「ふうん……」
私は教室の中に足を踏み入れた。
窓際に進んで外を覗く。
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