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「なんで、俺のせいなんだよ」
「……だって……」
私は言葉に詰まり、すごすごともう一度机に腰掛けた。
廊下のスピーカーから、椎名萌の澄んだ声が聞こえてくる。
「さっきの放送……。あれ、何よ」
私は、小さな声で言った。
「全部無かった事にして、って……何?」
恥ずかしさが込み上げて来て、田辺に見られないよう、顔を背ける。
「無かった事になんか……そんなこと、出来るわけ……」
私の声がどんどん小さく、消えそうになっていく。
「……初めてだったのに……。ひとのファーストキス、強引に奪っておいて……無かった事に、って、ひどいよ……」
少しの沈黙。
「――わかった」
田辺が私の手を取った。
教室が薄暗くて、よかった。
灯っているのが補助灯の光だけで、よかった。
私……きっと、今までで一番、赤い顔してる。
「じゃあ、責任取ってやる」
私はまだ、田辺の顔を見られずにいた。
「なによ、それ……」
田辺が私の頭のてっぺんをわしゃっと掴んで、ぐり、と自分の方に向けた。
「ちゃんと顔、見せて」
私は、まっすぐな田辺の視線に釘付けになっていた。
いつもとは違う、真剣な眼差し。
――田辺って……こんな顔、するんだ……。
「俺が責任とって、いいんだな」
「……」
「そしたら俺、……もうお前のこと、離さないよ。いいの?」
私の目を覗きこむ、……優しい目。
「……いいよ……」
私の口から、こぼれるように発せられた言葉。
「取って。ちゃんと、責任……」
私は自分から顔を近づけ、田辺の唇に自分の唇を触れた。
――大好き……。
大好き、田辺。
顔をそっと離すと、田辺は、少し驚いた顔をしていた。
私がじっと見つめると、ちょっと照れたように目を逸らし、私の髪をくしゃっと撫でた。
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