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木になる話
{いい話」
昭和47年、大島紬は大景気に沸いていた
雅もその恩恵に少しだけ浴していた頃のはなしである
大島紬の製造は全てが分業である。雅は加工と言う大島紬の絣糸の製造をする中で締めと言う絣柄をつくる下請けを持っていた
くる下請けを持っていた
その中の一人が工賃の前借をした
そのとき職人の奥方が大島の里に帰っていた
男の一人暮らしのわびしさから毎晩焼酎を飲んでいた
その挙句胃に穴が開き入院即日死亡した
雅が連絡を受け駆けつけたときはもう逝っていた
別れた奥方もかけつけなんとか葬儀は済ませた
子も二人いた事から遺骨は元妻が持ち帰って供養することとなった
それから30年の月日は瞬く間に過ぎ去り幼かった女の子も立派な成人女子となっていた
そして職場の同僚と結婚することとなった
その間寡婦は大島紬を織って二人の娘を育てるのに必死で夫の借金のことまでは気が回らなかった
娘の退職金など入り思い出したのであろう
亡き夫の前借金を返そうということに思い至った
突然の二人の夫人の訪問にびっくり
一人は元織り工の常代だが連れの娘さんが分からない
話してみればあの小さかったt嬢である
家に上がって二人は丁寧に手を付いて封筒をさしだして言った
「長い間すみませんでした。常次が借りた5万と残りはお詫びのしるしですお受け取りください」
雅は胸が熱くなりすぐには言葉が出ない
「ありがとう、気にしていたんだね、その気持ちだけで嬉しいよ。そのお金はT嬢のお祝いに差し上げます」
とおしかえした
[ありがたいことですが、これを貰うとこれからも気にしながら生きていくことになります」
そういわれると仕方ない。気持ちを察して受け取ることにした
雅はほかにもお金を貸しているが自ら返す人はひとりも居ない
ことあるごとに
「雅はあの世に行ったら小遣いは沢山」と笑いとばしている
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