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閉まるドアを見送り、彼は食器を片づけた。
彼の運営する喫茶店は大通公園付近の「どこか」に存在し、本来であれば、店内も外部の喧騒に侵入を許してしまうような立地にある。
それでも、店内は現実世界から切り離されたかのように、無音の空間が隅々まで染み亘っているのだった。店内に置かれた観葉植物は無音を吸収し、真新しい食器類は無音を反響させる。異空間という言葉がこの上なく似付かわしかった。
彼の喫茶店は、出される品も然る事乍(なが)ら、その客というものも殊に奇妙奇天烈であった。そもそも、彼の喫茶店は常人には決して見つけられない。「食」に対して強い理想を持つ者、とりわけ、アルバムの写真に対して抱く感情と同質の、思い出としての理想を抱くものにのみ見つけられる、限定された空間である。
一度訪れた客であっても、彼の喫茶店で理想を食した者は二度と訪れることができず、見つけることも儘ならない。
────まあ、彼女だけは例外みたいだけど。
彼は自身の店で常連になるという、ある種の異彩を放った、特別な異志を持つ少女を思い起こした。
彼の喫茶店で常連になるということが意味するものは、絶えることのない噴水のごとき理想。幸とも不幸とも捉えられる、決して満たされることのない憧憬は、彼女の中で蔓衍しているのだった。
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