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揺れる電車内から観える景色はいつも同じで、それでも飽きることが無いのは、きっと何かが違うから。
────それは、何だろう。空? 雲? 或いは、それよりももっと些細な、道端の小石のような、気にもとめない様々な要素なのだろうか。
電車が新札幌駅で停車すると、彼女はポケットからデジタルカメラを取り出し、いつもと変わらない駅の風景を切り取るのだった。
────それとも私が、変わっているだけなのか。
恐らくきっと、そうなのだろう。
彼女はデジタルカメラをポケットにしまい、再び流れ始めた景色に意識を埋めると、その流れに身をゆだねるように目を瞑るのだった。
『────次は、平和です。』
いつもと変わらないアナウンスが、通勤時間とも帰宅時間ともズレた、穴だらけの客席を埋めるように流れるのだった。川のせせらぎのように。また、春のうららかな風のように。揺れる車内に染み渡る。
それは彼女を包み込み、彼女は貪欲に、耳を澄まし、それを吸収した。
「……次は平和、ね」
平和というのはただの駅名だが、それがわかっていても、この文句には雲が晴れた心地になる。
次が平和なら、平和の前は何なのだろう。平和の先には、何があるのだろう。そんな、野暮なことは考えない。
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