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木が生い茂った森の中は、昼にも関わらず薄暗かった。
獣道に慣れていない俺のことは放置で、ガンガン突き進むアルトゥールさんと兵士達。
正確な時間は分からないが、もう大分奥深くへと入り込んだはずだ。一体いつまでこの獣道を進まなきゃならならないのか。そろそろ疲労が見え隠れしてきた頃である。
――ガサッ!
「!」
とあるポイントにたどり着いた時。それまで歩く邪魔をしていた草木が一気に失せ、俺は森の中にポッカリ空いた空間に出た。
そして、目の前に広がる光景に驚きを隠せなかった。
「何だ、これ…!?」
自然の中に置いておくには大変似つかわしい、ゴツい機械。辺りにはコードらしきものがたくさん張り巡らされていて、その空間の中央には大きく魔方陣が画かれていた。
「用意は出来ているな?」
「ハッ、いつでも。」
アルトゥールさんは、機械の前に居た兵士に声をかけている。どうやら二人の話をかいつまんで聞いていれば、これは【転移装置】というものらしい。技術に栄えた国と魔術に栄えた国が一緒に作り上げた合同作品なんだとか。もうこの時点で俺のおいてけぼり感が否めない。つかこんな田舎に持ってこなくても。
「……では、ユノ・クロフト。魔方陣の中へ」
「へ?あ…はぁ。」
俺は始めて見る装置と魔方陣に感心しっぱなしだった。すると、話を終えたアルトゥールさんが俺を呼ぶ。
つい生返事で答えれば、すでにアルトゥールさん達は魔方陣の中で待機していた。
「ここから城へと直接【転移】する。覚悟は良いな?」
「……」
感情を示さない声が俺に訊ねる。ウルカディアなんて、村を出たことがない俺にはどんな場所なのかまったく想像がつかない。
不安は募っていく一方で、でも心に余裕が出来てきたのかちょっとしたワクワクも募らせていて。まさに感情が入り交じった状態で、俺は持っていた鞄のヒモを握り締めた。
「(ここで帰りたいなんて言ったら、空気読めないのも良いとこだよなぁ…)」
高揚する気持ちを落ち着かせるため、一回、二回と深呼吸を繰り返す。その後意を決すると、俺は一歩、魔方陣の中へと入っていった。
―――――87番目の、勇者となるために。
第1話・END
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