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先生が空也さんを呼ぶと彼女はすぐに部屋に入ってきた。
やはりどこにも怪我をしている様子はなさそうだ。
「後藤田君が帰るから送っていきなさい。まあ、連続してってことはないような気もするけどね。彼、体ガタガタだから鞄持ってあげなさい」
先生はどこから持ってきたのか、鞄を空也さんに持たせる。
そういえば倉庫に放置していた気がするが帰り際に持って帰ってくれたのか。
「そうだ。先生、敵はオイゲンって言っていました。あと…」
「うん?ああ、いいよいいよ。詳しい話は明日聞くからさ。もう9時になる。親御さんが心配する時間だからね。魔女である前にボクは教師だからね、一応。ははは、じゃあ聖、あとは頼んだよ」
空也さんは頷くと僕の鞄を持って、制服姿のままリビングを抜けて玄関へと向かった。
僕もなんとか歩いてついていくという形で靴を履き、玄関を出た。
「ここってマンションだったんだ…そういえば駅前に新しくマンションができたって聞いたけどここだったんだ」
ここはマンションの7~8階くらいだろうか。
下の方は駅前ということもあり、ネオンで明るく照らされている。
遠くに目をやるとポツポツと山間部の住宅の光が見えた。
「やっぱり9月ともなると夜は肌寒いね」
「……」
僕と空也さんはそのまま無言のまま廊下を歩き、エレベーターに乗った。
7、6、5、4…と下がっていき、降下する音だけがエレーベーター内に響く。
そういえば空也さんは僕の鞄以外なにも持っていないな。
ということは今は話せないし、書けないのか。
「あ、あのさ、今日の姿(アレ)って…やっぱりマスクと関係あるの?」
彼女は特に頷くこともなく、ただ表示される数字をじっと見たままだ。
やっぱり聞かれたくないことって事なのかなぁ…。
「………ん」
彼女は横目でこちらをちらりと見ると本当に小さな声でうなずいた。
エレベーター内が静かで、いまが夜じゃなければ聞き取れないくらいの声だった。
僕はこの時、初めて彼女の声を聞いたような気がした。
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