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それから僕と彼女は何を会話すること無く、駅前商店街を通り、次第に住宅街が連なっていく道を歩き続けた。
僕は彼女の後ろを歩きながら所々にある壁や側溝、道路、歩道の縁石を見ていた。
そういえばここら辺は妙に欠けている物が多いような気がするな。
壁の一部が崩れていたり、アスファルトの地面がボロボロだったり、縁石の上の部分が欠けてしまっているものなどが多いのだ。
「国土交通省の怠慢か……いや、でも年末くらいに予算編成の関係で道路工事とかするから大丈夫か」
などと訳知り顔で大人の事情を言ってみたりして歩いていると、僕は空也さんの歩幅がさきほどより小さくなっていることに気付いた。
僕がボケっと歩いて歩く速度が遅くなったのに気がついて、歩調を合わせてくれていたらしい…。
振り向くわけでもなく足音だけで判断したのだろう。
「あ、ごめん…」
こういう時は『ありがとう』って言うべきか、と言った後で思う。
彼女はそのまま止まらずに歩いていく。
どこかでパトカーがサイレン鳴らしているのが聞こえてきた。
あんまり夜道をうろうろしているのもよくないな…。
心持ち少し早歩きで僕は彼女の後を歩いた。
「今日は、ありがとう。おかげで助かったよ…こういうのを命の恩人って言うんだね。まさか実際に使うとは思わなかったけどさ、ははは…」
無事家の前に着き、僕は空也さんに少し照れながら言った。
彼女は相変わらず、無言で受け、僕に持っていてくれた鞄を渡す。
受け取る時に腕や腹に痛みを感じたが我慢してひきつった顔になる。
「それじゃあ、おやすみ」
玄関を閉める最後まで彼女はその任務を全うしようとしたのか、じっと立っていた。
とりあえず家に帰れてやれやれといったところか…。
こうして僕の長い1日は終わった…。
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