桧原里紗

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いつも通り朝練に出て、いつもと変わらず溜息をつきながら階段を上る。 部活が終わって階段を上っている時は、視界に入ってくるもの全てが暗い色をしている。 半透明の黒いフィルムを纏ったように、 視界全てが暗くなる。 1年の教室は、いちばん遠い。 距離的には一番遠いけど、感覚的にはとてもとても短い。 確実に、嫌な場所に向かっている気がする。 朝、教室に入ると、黒板は水に濡れて、濃い緑が溶けすぎた抹茶アイスのような色をしている。 床は滑らないように気をつけて歩かないといけないほどにつるつるで、 あちらこちらにある黒いマジックで汚れた机が視界に入ってくる。 そんな現実から少しでも目を逸らそうと窓の外を眺めれば、 たちまち視界には飛ぶハサミ等が入ってきたりする。 ささきさーん、こっちむいてー。 あはは、貞子そっくり!似あってるよー? いっそそのままでいたらー? やだー、カナコチャンうまいー、ぎゃははー! じゃー次は速水くんかなー! うっわー、カナコチャン鬼畜ーっ! ぎゃははは・・・ 思わず、自分と同じ名字が聞こえて振り向いてしまう。 でも、自分が一番分かっている。 振り向いて助けを求めるような視線を見つけても どうせ助けられないのなら せめて向こうを期待させてしまうようなことをするのはよそう 俺は、一体何なのだろう。 そうか、 傍観者、か。
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