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「もぉ~、遅いよ山田くん」
図書館の一番奥の机に突っ伏したまま顔も上げずにくぐもった声だけが聞こえる。
「悪い」
原崎の向かいに座り、荷物を隣の席に下ろす。
流石に放課後の図書館は司書の先生が居るだけで他には誰もいなかった。
俺は鞄から数学のノートと問題集を取り出し勉強を始める。
家でやらないのは誘惑に負けてしまうからである。
向かいの原崎は寝ているのか先程の言葉以降何も発せず動かずにいた。
規則正しく動く背中に微かに聞こえる寝息はどこかホッとする。
原崎は告白の答えを急かそうとはしなかった。
「考えさせてくれ」の言葉にも「うん。待ってるね」としか言わなかった。
今更申し訳なさが込み上げてくる。
原崎の栗色の髪に触れる。
フワフワで犬みたいだった。
こいつはモテるのだ。見た目も性格も俺なんかには勿体無いくらいで…そもそも俺は男で、こいつは選び放題なのだから…もっと俺なんかじゃない誰かとの明るい未来があるはずなのだ。
それを若さ故の過ちで台無しにしてしまいたくはなかった。
「……ごめん…原崎」
「それが、答え?」
寝ているものだとばかり思っていた俺は驚いて原崎のうつ伏せの姿を凝視した。
「それが、答えなの?山田くん」
原崎の言葉に俺は息を大きく吸い込んだ。声が震えないように、
「……俺はお前とは付き合えない…ごめん…ごめん、原崎」
俯いてその言葉を絞り出す。
本当はーーー…俺はーーー…
「…俺は、好きだよ。山田くん」
「だから、泣かないで」俺の頬に原崎が手を添える。
気付けば俺は涙を流していた。
「…っ、俺は…大嫌いだ!!」
原崎の手を振り払って図書館を走って出る。
本当は好きだったのだ。
告白される前から気になってはいたのだ。でも、これが恋だと気づいてしまったらもう後には戻れなくなる気がして怖かった。
俺だけじゃなくて原崎の人生もメチャクチャにしてしまうのではないかと考えたらとても怖くなった。
だから告白された時、嬉しかったのと同時にとても辛くなった。
だから自分の気持ちに嘘をついて原崎に知られないようにしていた。
俺が原崎の告白を断るだけで良かったのに……やっぱり俺は欲張りで他の誰かと原崎が…俺が原崎の一番になりたいと強く願ってしまっている自分がいて涙が零れていた。
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