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細い細い雨が、世界を濡らし行く。世界を優しく包む恵みの雫で彼女は踊る。
水無月も、もうすぐ終わろうかと言うその日は、一日中薄い霧雨が降り注いでいた。人間は、雨を避けあるいはいかにして防ぐかに腐心してきたと、彼女は思う。雨に趣があると感じる人間よりも、鬱陶しいものと考える人間の方が多いのが現実。
世界をちょっと上の所から見下ろしてみれば、それは分かることだった。人はどうして、いつも何かに急き立てられるように、動くのだろう。彼らは何かしらの法則に縛られ動き続ける。まるで機械の歯車のように。いつ頃からか、彼女の中で生まれた疑問は今もなお廻り続け、辿りつく事が無い。季節の流れがどこかに辿りつくわけではないように。
幾つもの雫が波の如く寄せては、揺れる髪を濡らして、銀に染める。ハラハラと舞う葉が衣の袖に付いて、大地に根付く大木の記憶を描く。気まぐれに吹く風の音が、風に舞い上げられては落ちる石や木が、鼓笛代わり。この舞に規則性は無かった。意味も無い。ただただ、自然の霊気に身を任せて、踊り続ける。
一人きりの舞台に、一人の乱入者が舞い降りる。
「やあ、混ぜてよ」
それは一人の少女だった。真っ赤な、肩に掛かる程の髪、橙色の衣に、朱の色の袴。人の姿で現れたが、彼女には分かっていた。彼女が人為らざる者である事を。かつては、霊鳥の長であった者であることを。
「踊りたいと? あなたは太陽に向け羽ばたいていた方が、お似合いですよ。鳳凰殿。ここは地上、あなたにとっては狭すぎやしませんこと?」
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