第三章 落下 戻らない物

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†††  校舎の外と内が断絶された岡見学園。その外の領域の陽の世界は、えらい騒ぎになっていた。校舎の中に入ろうとした生徒達の悉くが、何故か校舎の門より先には入れず、入ろうという気にもなれないまま、その周辺を歩いて回った。  本人達さえも自分達が何をしているのか、分からないに違いない。それは生徒だけではない。保護者、事務員に非常勤講師、弁当屋、他業者等々、それぞれ色々な事情で学園内に用がある人達もまた、一人の例外も無く学園内に入れなかった。しかも、その理由が自分達ですら分からないのだから、不気味だ。  しかも、不気味なのはこれだけではない。本人達は気付いていない。この現代文明にあって電話で学園内と連絡を取ろうとする行動を、何故誰一人として取ろうとしないのか。  それこそがこの学園全体に掛けられた術だ。が、これは怪異による影響ではない。怪異を“独り”で解決しようとしている者――吉備影津の意志によるものだった。  曽我海馬はその現場を、その術の効果をどこか冷めた目で眺めていた。 ――ここまで放っておいて、それでもなお誰かから隠そう言うんは卑怯通り越して、滑稽やなぁ……尤も、なんや裏がありそうやけども  普段は、浅黒い肌に隆々とした逞しい身体と生き生きとした表情が売りの好青年である――自己評価――海馬だが、今はどこか物憂げで、覇気が感じられない。  下の混乱した様子があっという間に通り過ぎ、“車内”が揺れた。まさに土公祟りの怪異が起きている現場へと突入したわけだが、海馬はこのあまり乗り心地の良くない席に顔をしかめ、隣に座る少年へと文句を垂れた。 「もうちびっと揺れるの抑えられまへんか? 酔ってしまってしゃあないですわ」  少年はにやにやと笑い口元を抑えた。 「ほっほ、なんじゃ。おぬし乗り物は苦手かの? 戦闘ではいつも飛んで跳ねまわって大暴れしとるくせに……お、あれはなんじゃ? 鬼か? おぉ、あれに見えるは九天応元雷声普化天尊、雷命之剣ではないか。む、あちらは月の加護を受けし陰陽之巫女か? 派手じゃのう」
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