第三章 落下 戻らない物

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 なのだが、どうにも締まらないのが一人。いますぐ馬車に放り込んでお帰り願おうかと、半ば本気で海馬は考えるが、それはあまりにも大人げない。それに、彼の力はここにいる誰よりも強い。それは厳然たる事実だ。 ――安倍晴明なんて反則物だして来られたら、俺が敵やったら怒るわな 「で、晴明“様”どないするおつもりで?」 「なんじゃ、妙にわざとらしいの」  そろそろ面倒になったので、黙り込む。晴明はわざとらしく咳払いし、ようやく真面目モードに切り替わった。 「楓雅、海馬の二人はそれぞれ鬼門、裏鬼門にて調祓を執り行え。ま、陰陽師界きってのえーす、春日の夫婦もおるわけだし、そんなに苦戦はしないだろうが、気を付けるのじゃぞ」 「ふむ、あの二人が戦っとる巨大な式神もそろそろ倒れる頃合いやね。そっちも手伝って貰えるやろうけど……」  果たして、どうだろうか。  春日と吉備の夫婦。どちらも陰陽寮の命令無いまま動き出し今に至っている。その目的は、はっきりと分かっていないが、恐らく逸ったまま飛び出して行った吉備の巫女、舞香が敵に捕まりでもしたのだろうと、海馬は予測していた。  数日前より、吉備舞香は現陰陽寮に岡見学園で起きている怪事件について報告していたのだが、彼女の祖父である影津の「大したことではない」の一言によって揉み消されている。  その舞香が神社を出て行ったと報告があったのが昨日だ。正確には連絡があったのは、陰陽寮にではなく、刀真に、なのだが。その刀真は、半ば強引に現陰陽寮の許可を得て「雷命」の封を解き、舞香を助ける為に、この岡見へと馳せ参じた。その思いっきりの良さは、海馬にしてみれば痛快だが、陰陽寮の他の重鎮、ここにいる晴明や楓雅も含めて皆苦々しい表情を浮かべていた。  今三人は刀真達に引っ張られるような形で、この地の怪異の解決に乗り出していた。結果として、最悪の事態になる一歩前に、こうして駆けつけられたわけだが。こうなると、舞香が勇み足を踏んだ気持ちも分かる気がした。
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