第三章 落下 戻らない物

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「晴明様は?」楓雅が静かに訊ねる。彼の手には青竜偃月刀があった。彼が使役する式神の形代であり、武器であり、代名詞でもある霊具だ。 「うん、儂は地下へ行くぞ。五頭龍の古巣にの」 「ち、地下? 古巣? あの吉備の式神の五頭龍の、かいな?」  海馬は驚いて聞き返した。かつてここには五頭龍の霊気溢れる川が流れていたと聞いた事はあったが、地下があるとは初耳だった。楓雅も同じく聞いた事が無かったらしく、驚きこそ表情に出さないものの、説明を求めるように晴明を見た。 「その存在を知っておるのは、儂と影津くらいのもんじゃな。あやつ、息子にも話して無かったらしいの」 「はぁ……ま、あの秘密主義な爺らしいですわ。で、なしてそないなとこに?」  それは愚問だったかもしれないが、晴明のあからさまに人を馬鹿にするような顔に、海馬はイラっとなる。 「おぬし、馬鹿じゃ馬鹿じゃとは思ってたがのー」 「そうですか。そら、すみまへんなぁ……とっとと言え、もしくは、失ね」  びくっと、晴明は海馬の殺気にというより、その命知らずさに震えた。海馬にしてみれば、その反応が鬱陶しくて仕方ないわけだが。 「お、おぬし、もう少し敬うという気持ちをだな……分かった分かった、言うよにって――そこに雛達が集められておるからじゃ」  雛達? 海馬は首を捻り、そして思い至る。栃煌神社の若き陰陽師達の事に。
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