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仄かな優しい光。
瞼の内にまで伝わるその明かりに誘われるように、碧は意識を取り戻した。ぼんやりと目を開き、前を見る。ここは祠だろうか。正面に見えるそれは何か……呪術を執り行う為の祭壇のようだった。だが、どこか違和感があると思って、凝視する。何のことは無い。
自分は祭壇の頂上、中心部分から祭壇そのものを見下ろしているのだ。
「え……?」
意識が一気に戻され、碧はぎょっと身体を逸らそうとした。が、首から下が動かなかった。胸より下が岩の中に埋め込まれていた。碧の意識に呼応するように、薄緑色の輝きを放つ。優しくだが、どこか不安を掻きたてられるような、深海魚の疑似餌のような不気味さがあった。
ふと隣にも同じ位の大きさの岩が置かれている事に気づく。それは青に赤に橙色に白にと、次々に色が変わっていく。その光の中に巫女が一人、胎児のように身体を丸めているのが見えた。
「佐……保」
舞香の友達である少女であり、式部の季節を司る巫女。彼女もまた、夏樹を探していた筈だが、やはり捕まっていたのか。
「む、起きたか碧」
碧の頭上で黒龍こと黒が身を捩らせ、すり寄る。背後に更に大きな岩があるらしい。黒はそれ以上動けず、鱗の艶も悪かった。
「黄龍と青龍は完全に動けん」
「白龍と赤龍は?」
碧の問いに、黒はフッと笑みを浮かべた。
「この巣堀に潜ませておったのだがな」
えっと碧は、声を上げそれから、もっと早くすべきだった質問をした。
「どうして? ここは、奴らの本拠地じゃないの? もしも見つかったら――」
「こらこら、そんなに一片に質問するでない」
黒が苦笑して窘める。碧はムッと唇を尖らせつつも、式神が応えるのを待った。
「うむ、まず、ここがどこかについてだがの。ここは岡見の地下だ。かつて、私が神泉苑より逃げ出し、新たな居住地とした巣堀だ」
「えっ」碧は思わず声を上げて驚いた。確かにこの岡見学園で五頭龍と吉備家は出会ったと、聞いていたが、まさかその古巣がその地下にあったなんて初耳だった。
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