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「まぁ、無理も無い。影津はここの存在を明かそうとはしなかった」
それは何故なのか。黒はそれ以上を語ろうとしない。それに、これ以上聞けば本題から逸れる。そう判断し、碧は訊ねた。
「で、その私のような吉備の人間ですら、知らないようなとこで、……役小角さんとやらは何の用があるのかしら? 私達をこんなところに拘束したところから見るに、碌な目的ではないでしょうけど」
「うむ、さしずめ、ここの霊脈を乗っ取りに来た……というところか。彼の目的がこの土地そのものを自らの物とすることなのか、それとも“霊気”に関する何かなのかは分からんが」
含むような物言いに、碧はある事に思い至り息を呑んだ。霊気はあらゆる霊術の基となる燃料のようなものだ。呪文を唱えるにも、式神や霊具を生み出し造るのにさえ、霊気は無くてはならないものだ。
この岡見の地は龍の霊気が流れている。そして、龍の霊気はそこらの霊獣や式神とは格が違う。そして、敵があえてこの“霊気”を欲しているのだとすれば、目的は一つだろう。
「変若水……か」
神話にその記述が見られる不死信仰の霊薬だ。だが、無論実際に吉備家が管理している変若水は、そのような効果のある霊薬ではない。が、悪意ある者の手には決して渡せない秘術が施されている。
「まさか、若返りたいだけなんていう馬鹿げた理由で狙ったわけじゃないでしょうけど」
役小角――あの法師はそう名乗った。もしも本物ならば確かに変若水を求めたとしてもおかしくはなさそうだが。果たしてあれが本物だとは碧には到底信じられない。
「我らが囚われているのも、奴の目的と関わっているのであろう。霊気を奪われておるぞ。我らはな」
全身を襲うこの不快感と虚脱感の正体はそういうことか。この岩自体が霊具となっているらしい。
「で、それは分かったけど。やっぱり、赤龍と白龍をここに潜ませたのは不味かったのではない?」
いくら古巣だからと言っても、今は役小角に占領されてしまっている。月と合流させた方が良かったのではないか。だが、黒は何故だか笑いを堪えるように、腹を捩っていた。
「うむ……だが、彼らをここに導く事は出来た」
――え? と、碧が問いかけるような視線を向けたその時だった。
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