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現れたのは一人の法師だった。
「来ると思っていたぞ、吉備の巫女の片割れ。そして、そこにいるのは」
法師の視線が、一真へと注がれる。言い知れない悪寒が肌へと這い寄る。法師の瞳には生気というものを感じられなかった。髑髏の眼窩のように、底が知れない闇。
「成程。彼女を九霊太妙亀山(くれいだいみょうきざん)、玉の皇女とするならば、さしずめ君は東華帝君か? にしてはあまりにも貧弱。何故、彼女は君を選んだのだろうな」
「何言ってるのか、さっぱりわからないぜ」
一真は、それを一笑に付した。だが、思ったよりも声が震えている。なんだ、こいつはと、思う。今まで会ったどの霊術師以上に得体が知れなくなおかつ格が違う気がした。術者としての正体を明かした沖博人と感覚は似ているかもしれない。
「お前がラスボスって事でいいのかな?」
法師は笑いも怒りもしなかった。感情があるのかどうかさえ怪しい。舞香がキッと睨み、袖から短剣を取り出した。白龍、赤龍の二頭が静かに鱗を逆立てる。
「役小角と言う。冥土の土産にでも覚えておくがいい」
未だ、殺気すら見せない小角に対し、一真は破敵之剣を突き付けた。が、またしても、あの酷い頭痛に襲われる。鬼一と常盤が義覚と戦っていた記憶。小角が片手を突き出した。
「出でよ、大峰山前鬼坊妙童之義覚」
凄まじい霊気の放出と共に出現したのは、紅い鬼。こちらは主と違い、溢れんばかりの殺気をその逞しい身体に押し込めていた。研ぎ澄まされた刃物のようだ。
槍のように長い柄に斧の刃。鬼一も常盤も敵わなかった相手であり、月でさえ苦戦した。自分と舞香に太刀打ち出来るとは思えなかったが、そこまで考えて一真はあることに気が付いた。
義覚は右腕で斧を持ち、左手は腹の位置を抑えていた。甲冑に包まれた逞しい身体。だが、そこは何かに貫かれたように穴が開いていた。一真の視線に気が付いてか、義覚が笑った。
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