序章  霧雨に戯れる

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――何故なんだろう  この霊鳥は知っているのだろうか。さて、とはぐらかされるだろうなと、思いつつ尋ねる。 「ねぇ」 「ん? 何、春霞のお姫様」 「……その呼び名はやめてちょうだい。表向きはただの女子高生なんですから」  紅葉はまだ先だというのに、少女は季節外れにも頬を赤く染めた。しかし、それをからかう様子は式神にはない。少女が何を言おうとしているのか、それを悟っているかのようだった。返すべき言葉も、この質問が何を齎すのかも分かっているに違いない。  そして、それを理解した上でそれでも、聞かずにはいられない少女の気持ちも。たぶん、千年もの間、少女が発するような疑問を何度も何度も受けてきたに違いない。自分自身でもしてきたのかもしれない。 「なんで、選ばれたのが私だったのかな?」  式神は答えなかった。たぶん、これまでも何度もそうしてきたのかもしれない。答えないという選択肢を。答えられないのではないと、少女は直観する。多分、自分は答える為の条件すら満たしていないのかもしれない。あるいは自分で見つけろということか、あるいは……、 「考えすぎ」  式神はそう一言。何の事を指しているのか分からず少女は、やはり考え込んでしまう。  ただ、いくら悩んでも、答えが出ようと出まいと――少女は踊る。それが役目だから。  雨はしばらくやまなかった。
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