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その使い手である陰陽師の青年は、長身、蓬髪、瓶底のように分厚い眼鏡。着ているのはよれよれのYシャツに薄汚れたチノパン。
世間一般が抱く陰陽師のイメージとは、大分かけ離れている外見だった。それもある意味当たり前、彼はどこかの組織に属しているでもなく、身に着けた術や知識はすべて独学の、はぐれ陰陽師なのだから。
水無瀬鷹介というのが本名だが、わけあってヨウという偽名を使う事が多い。式神達からは、ニシパ(兄貴とか旦那みたいな意味合いだ)等と呼ばれていたりと、碧としては彼をなんと呼べばいいのか分からなかった。
その式神達は遠く北の地、アイヌの生まれであるというから、また変わっている。
中原影夜との戦い――魂呼ばいの怪等と呼ばれている――の前後あたりから何かと栃煌神社と関わりを持つようになった。今日は別に何か用事があるというわけではなく、単に雨宿りをしたいが為に立ち寄ったようである。
「すまんな。こいつ三日前から見たい見たいって言っていたもんだから」
「余所で見ればいいじゃないですか」
「いや、なぁ。銀狐連れてネットカフェ入るわけにもいかんし」
それはそうだと思う一方で、狐なのだから人化くらい容易いだろうとも思う。ふうっと溜息をつき碧は銀狐のなめらかな毛を撫でた。が、銀狐は気持ちよさそうにするどころか、ぐいっと顔を上げて文句を垂らした。
「あちきの気が散るんでやめてもらえませんかね?」
――ムカ。碧の目の下が痙攣した。その背後からぬうっと出たのは蛟(みずち)だ。蛇と龍の間に位置する水神。「水の主」が転じて蛟になったとも言われている。
その蛟がゆっくりと咢を開いた。一喝でもするのかと思ったが、彼女の式は至って穏やかな調子だった。
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