宵風。

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「……優しくしないで……。僕は、……何も返せないから……」 身体を、小さく小さく、まるで消えようとしているみたいに小さくして、宵風が言った。 とても苦しそうな声に、胸が痛んだ。 「宵風……」 そっと呼んで、その肩に触れる。 ぴくりと髪を揺らして、宵風が顔を上げる。 透き通るような白い肌。 どこか遠くを見るような澄んだ瞳。 美しかった。 消え逝く宵風の灯火は、思わず息を呑む程に、美しかった。 「──っ宵風……!」 好きだ。 たった一言が、言えない。 どうして? こんなにも好きなのに。 ねぇ、宵風。好きだよ。好きだ。 だからそんな悲しいこと言わないで。 「返さなくて良い……。私は、そんな事の為に、貴方の傍に居るのじゃない。宵風……」 冷たい顔を、両手で包み込む。 宵風の黒く濡れた瞳が、不安気に揺れる。 違う。違うんだ。 こんな顔をさせたいんじゃない。 貴方を困らせたくなんかないのに。ただ、私の気持ちを知って欲しいだけなのに。 貴方を、好きなだけなのに……。 「……宵風。……居てくれるだけで良いんだ。ここに、……私の傍に……いて……」 言葉じゃ足りない。 もどかしくて、私は宵風を抱きしめた。力いっぱい。 宵風の華奢な身体は、後少し力を込めたら壊れてしまいそうだ。 「……どうして……?」 宵風が、心底困った様に言う。 「何が?」 宵風の髪に、顔を埋める。 失いたくない。絶対に。 「……とうして、傍に居てくれるの? 僕は、何もしてあげられないのに。……温もりさえ、あげられない……」 そう言って、顔を伏せたのだろう。 私の剥き出しの鎖骨に、宵風の冷たい唇が当たる。 その冷たさに、残された時間の少なさを思い知る。 「──宵風っ、私はっ……」 宵風の冷たい息が私の胸の空洞を満たして、息が詰まる。 知らず、宵風を抱く腕に力がこもる。 「私には宵風が必要なんだ」 この冷たい温もりが、どうしようもなく必要なんだ。 愛しくて、仕方ないんだ。 もう、宵風しか見えない。 「だから、……生きて」 貴方の居ない世界に、一体何の意味がある? 言ってしまって、後悔した。……宵風が、凄く困った顔をしたから。 「僕はもう、生きられない……」 嗚呼、ほら。宵風が困ってる。
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