2人が本棚に入れています
本棚に追加
「……優しくしないで……。僕は、……何も返せないから……」
身体を、小さく小さく、まるで消えようとしているみたいに小さくして、宵風が言った。
とても苦しそうな声に、胸が痛んだ。
「宵風……」
そっと呼んで、その肩に触れる。
ぴくりと髪を揺らして、宵風が顔を上げる。
透き通るような白い肌。
どこか遠くを見るような澄んだ瞳。
美しかった。
消え逝く宵風の灯火は、思わず息を呑む程に、美しかった。
「──っ宵風……!」
好きだ。
たった一言が、言えない。
どうして? こんなにも好きなのに。
ねぇ、宵風。好きだよ。好きだ。
だからそんな悲しいこと言わないで。
「返さなくて良い……。私は、そんな事の為に、貴方の傍に居るのじゃない。宵風……」
冷たい顔を、両手で包み込む。
宵風の黒く濡れた瞳が、不安気に揺れる。
違う。違うんだ。
こんな顔をさせたいんじゃない。
貴方を困らせたくなんかないのに。ただ、私の気持ちを知って欲しいだけなのに。
貴方を、好きなだけなのに……。
「……宵風。……居てくれるだけで良いんだ。ここに、……私の傍に……いて……」
言葉じゃ足りない。
もどかしくて、私は宵風を抱きしめた。力いっぱい。
宵風の華奢な身体は、後少し力を込めたら壊れてしまいそうだ。
「……どうして……?」
宵風が、心底困った様に言う。
「何が?」
宵風の髪に、顔を埋める。
失いたくない。絶対に。
「……とうして、傍に居てくれるの? 僕は、何もしてあげられないのに。……温もりさえ、あげられない……」
そう言って、顔を伏せたのだろう。
私の剥き出しの鎖骨に、宵風の冷たい唇が当たる。
その冷たさに、残された時間の少なさを思い知る。
「──宵風っ、私はっ……」
宵風の冷たい息が私の胸の空洞を満たして、息が詰まる。
知らず、宵風を抱く腕に力がこもる。
「私には宵風が必要なんだ」
この冷たい温もりが、どうしようもなく必要なんだ。
愛しくて、仕方ないんだ。
もう、宵風しか見えない。
「だから、……生きて」
貴方の居ない世界に、一体何の意味がある?
言ってしまって、後悔した。……宵風が、凄く困った顔をしたから。
「僕はもう、生きられない……」
嗚呼、ほら。宵風が困ってる。
最初のコメントを投稿しよう!