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天を冲する炎だった。 夜空を焦がし、雲を赤く染め、それは煌々とした光で星を呑み込み、周囲十数里を照らし出す大火だった。 その大火を生んでいる城郭の内部はまさに火の海だった。 家並みはすべからく炎に包まれ、一際背の高い城壁上の望楼を炎は駆け上がり、 地表を舐める炎海は天へ波打ちながら伸び上がり、 火柱が火柱に重なり合い壁を大きく越える巨大な一つの炎の城を造り上げていた。 炎の城から離れることおよそ十里。 その豪炎に照らされた、城を見下ろす樹木の一本すらない小高い丘、 城へと向かう切り立った崖の上、その淵に一騎の騎馬がいた。 火の粉が舞い飛ぶ中、その騎馬は炎が逆巻きうねる城を見下ろして微動だにしない。 騎上の漢の相貌、その姿すら此処からでは赤く染まって判然としない。 息を荒げる自らの愛馬の手綱を弛く、そして並足に駆りながら、男は思う。 あの漢は今何を考えているだろうか、と。 漢の提げる青龍円月刀が炎の光を受けて鈍く、紅く、そして恐らくは血を纏って輝いていた。 馬を駆る男自身が右手に持つ同型の武器も同じ様に輝いていることだろう。 男は馬上から漢を見つめ、漢のいる場所を目指して馬を進めながら 、そう思った。 男が主君から与えられた目的はその漢を降らせることだった。
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