酒の席

3/6
前へ
/6ページ
次へ
 男はその日、昔の馴染みと一緒に居酒屋で酒を飲んでいた。安い酒につまみを片手に。 「それで、お前、相変わらず幽霊は信じていないのか?」 「当たり前だろう。幽霊なんてモノは、人が恐怖を感じる為に想像し生み出したモノだ。本当に存在しているならば、誰だって気付いているはずだし、恐怖を感じずにはいられない。それが、特定の人間にしか見えないなんて、あり得ない話だ」 「本当にいるなら、全員に見えてるか。面白いことをいうな」  男の話に馴染みは大いに笑った。 「だったら、お前、この近くにある幽霊屋敷なんか恐くないだろう」 「幽霊屋敷?」 「そうだ。なんでも、霊が多く住み着いてるって噂だ。テレビクルーも何度も訪れているんだ。幽霊がよく写るからってな」 「つまらん。どうせ、テレビ局のヤラセだろう。今のテレビは儲ける為には、非合法スレスレで撮影しているんだ。法よりも視聴者さ。視聴者から苦情さえこなければ、どんな方法でもする。例え、風紀に反した低劣な番組でも視聴率が取れればいいと思っているんだ」 「そんなこと言って、本当は恐いんじゃないのか?」 「何を言ってる」 「だって、お前、幽霊の話になると、いつも妙に理屈をこねるからさ。今だって、幽霊屋敷の話題からテレビ局の話にすり替わりかけたじゃないか」 「バカいえ。幽霊が恐くてたまるか。だったら、これから幽霊屋敷とやらにいってきてやるよ。どうせ、不良の溜まり場になってるだろう。そいつらをボコボコにしてきて酔いを覚ましてくるさ」  男は酔っていたせいもあって、怖がっているという馴染みの言葉に強く反発した。たまには、こうやって幽霊がいないことを証明してやらないといけない。男は声を荒げなら、近くにあるという幽霊屋敷へと向かった。  馴染みが言っていた通り、居酒屋から歩いて数分の所に、噂の幽霊屋敷はあった。空き家となっていたが、まだ外装は整ったままだった。ヨーロッパの建築物を思わせる屋敷だ。草が生えていたが左右対称であるシンメトリーの原形を保っていた。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加