酒の席

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 男は錆び付いた門を強引に開け、屋敷の敷地へに足を踏み入れた。雑草を踏みつけながら屋敷の開いてた窓から中へと入る。 「誰かいるか?」  屋敷に足を踏み入れるなり、男は声を上げた。返事はない。当たり前だ。この屋敷は空き家であり、今、ここには男しかない。仮に誰かいたとしても、返事をするマヌケはまずない。 「誰も居ないなら、勝手に歩かせてもらうからな」  男は声を荒げながら、屋敷の中を散策し始めた。もっとも、散策といっても、それといって出来ることはない。夜逃げでもしない限り、この手の家は正式な不動産に回される。その場合、施錠できる部屋は施錠されている。男が入った部屋にも案の定、ロックがかかっていた。だが、それは廊下側であって内側から開けるのには何ら苦労はいらない。  男は何度か賊に入られ荒らされている屋敷を見渡して、 「やっぱり、幽霊なんていないじゃないか」と言う。静かなだけで、幽霊のゆの字も見当たらない。しかし、これはこれでつまらない。これでは、仲間に語りようがない。せめて、何か変わったことであれば、酒の席の話にできたというのに。鍵が掛かっていない部屋を開けてみたが、どこにも静かで誰もいない。 「これでは、先に酔いが覚めてしまうじゃないか」  せっかくのほろ酔い気分だったというのに、台無しだった。男は溜め息をつくと、さっさと屋敷から出てしまおうと思った。あまり、長いして警察でもやってきたら面倒だからだ。入ってきた部屋の窓から、外に出ようと引き返した時だ。 ----クスクス  どこからか、子供の笑い声が聞こえた。男は声に反応して振り返る。すると、廊下の突き当たりに見慣れぬ子供が数名いた。 (子供?)  男は子供達を不審に思った。こんな夜遅い時間に、ここでいったい、何をしているのか。何故、男を見て笑っているのか。 (これが、噂の幽霊か?)  男は直感で、そこにいる子供達が普通ではないことを察した。薄暗い屋敷のはずなのに、子供達の姿だけは妙にハッキリと見えていた。その反面、子供達はどこか透けていて、向こう側の壁が見えてるといった、矛盾した光景がそこにあった。  しかし、 「これのどこが恐いというんだ?」  男は酔っていたせいもあっても、恐さを感じなかった。それに心霊現象といっても、子供達が小さく笑っているだけだ。 「クスクス・・・」  子供達はまだ笑っていた。
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