最期の日

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 土方はそんな沖田から目を逸らすと庭を眺めた。 「すずらんか・・・ こうやって見ると良いもんだな。  なあ、総司。俺は秩にお前の事を頼まれてんだよ。  ウチが亡くなったら、総司はんの事頼んますってよ。  だから俺はお前を連れて行けねぇ。  それは秩が望まねぇからな」  そう言った土方に、沖田は食い下がった。 「そんな事ありませんよ。秩さんは最後の時まで力の限り頑張れって私に言ったんですから」  そんな沖田に土方は穏やかな目を向けた。 「総司、良く聞け。  死に場所を求めて戦に行くってのは頑張ってんじゃねぇよ。  秩が言いたかったのは、生き抜けって事じゃねぇのか?  最後までお前らしくあれって事じゃねぇのか?」  黙り込んだ沖田に土方がニヤリと笑って言う。 「秩にも言ったんだがな。お前にも言ってやらぁ。  石に噛り付いても生きろ。  これは新撰組副局長・土方歳三からの命令だ。  良いな」 「・・・はい」  沖田の小さな返事を聞き、土方は満足そうに立ち上がる。 「待ってろ。その内、でけぇ土産持って来てやるよ」  そう言い残して、土方は洋服の裾を翻して帰って行った。 「沖田さん、紙と筆持ってきましたよ」  老婆が丁寧に部屋の隅に置かれた文机の上に置く。 「あぁ、有難うございます」 「沖田さん、何か良い事でも思い出していたんですか?  お顔が綻んでましたよ」  沖田は照れ臭そうに鼻の頭を掻くと言う。 「ええ、優しい鬼を思い出していました」  キョトンとした老婆に微かに微笑むと、沖田は墨をすり始める。  スィー スィー と硯を擦る音がする。  丁寧に丁寧に祈るような表情で沖田は一心に墨を磨る。  満足の行く濃さになると、沖田は一つ頷いて筆を取り、一思いに書き付けた。  「動かねば 闇にへだつや 花と水」
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