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沖田はもう幾度と眺めた庭を眺める。
先日は通りすがりの猫を斬ろうとして出来なかった。
とは言っても、斬れないと分かってやった事だった。
「宇都宮に行くと言ってから既に一月ですよね。今頃、新撰組はどうなっているんでしょうか?」
沖田の耳には世の中の話は聞こえてこなかった。
いや、新撰組についての話は入ってこなかった。
まるで箝口令がひかれているかのように、沖田の居る部屋に来るものは新撰組については話さなかった。
それはつい最近まで面倒を看てくれていたミツも同じであった。
ミツは現在、沖田の事を気に掛けつつも家族と一緒に庄内藩へと移っていた。
答える者のいない問いをして沖田は小さく笑う。
「本当は分かってるんですけどね。
戦況が思わしくないから言えないんでしょうね。
皆さん、隠すのが下手ですよね・・・」
だが沖田の知らない、想像もしない出来事は既に一月以上前に起こっていた。
慶応四年四月二十五日 近藤は板橋に置いて斬首されていた。
そしてあの原田も本所の神保山城守屋敷で、後に上野戦争と呼ばれる戦での負傷が元で亡くなっていた。
気付けば夕七つになって居た。
何処からともなく涼しい風が吹いてくる。
その涼やかな風を沖田は胸一杯に吸い込む。
「ケホ コホ コホコホ・・・」
今朝からあれ程調子が良かったと言うのに、突如として咳が込み上げる。
胸に溜まる嫌な熱が急速に膨張しているように感じた。
秩・・・
沖田は絶え間なく出る咳にもがきながらも、枕元に置いてあった愛刀・加州清光を手に取る。
それを抜き放ち、ヨロリと庭に下りた。
加州清光は陽の光を反射し、キラキラと輝く。
その煌めきは京で栄華を極めた新選組のようだった。
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