最期の日

11/11
前へ
/13ページ
次へ
 近藤さん、別れの時が来たようです。  お世話になりました。  出来るなら最後まで近藤さんの役に立ちたかった。    土方さん、近藤さんをお願いします。  私に、秩に、貴男が言ったように、石に噛り付いても生きて下さい。  新選組を、仲間をお願いします。    ゆき、キョウ。  幸せになって下さい。  不甲斐ない父を許して下さい。  もう一度、「おとうはん」と呼ぶ声を聞きたかった。  もう一度、この手で貴方達を抱き締めたかった。  お前達の成長をこの目で見て居たかった・・・  沖田は愛刀を一振りする。  以前の力強さは無くとも、その刃は空を裂き一筋の閃光を放つ。 「駄目ですね。鬼でも死神は斬れないみたいです・・・」  沖田の瞳から涙が流れ落ちた。  秩、私の人生はどうでしたか?  最期まで頑張れたでしょうか?  秩は優しいですから「よお頑張らはった」って言ってくれますよね。  そうだ、そこにすずらんは咲いていますか?  私も最期にすずらんが見たかったですね。  秩、今逝きます・・・  沖田が一際激しく咳き込むと、燃えるような赤い血を吐く。  そのまま身体から力が抜け地面へと崩れ落ちた沖田の横で、愛刀が光を放つ。  霞む目でその煌めきを見詰めていた沖田の耳に、秩のすずらんのかんざしについた小さな鈴の音が聞こえた。    秩、迎えに来てくれたんですね・・・  慶応四年五月三十日、沖田総司は誰に看取られる事も無くその生涯を終えた。 終幕
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

125人が本棚に入れています
本棚に追加