最期の日

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 そして板橋の本陣に置いて、大久保大和が本当に新撰組局長・近藤勇であるか見分が行われた。  その為に呼び寄せられたのは、あの伊東参謀の腹心の部下であった加納鷲尾と清原清だった。  伊東は僅か四ヶ月程前に新選組の手により暗殺されていた。加納鷲尾と清原清も命からがら新選組の手から逃げ果せた者達だ。  近藤の正体は瞬く間に露見し、捕縛となった。  その近藤を救いだす為、土方は江戸に潜伏し工作している合間に沖田を訪ねたのだった。  故に、沖田に甲府はどうであったかと聞かれても、話して聞かせる答えは無かった。  日野で別れてより一月の間で沖田の病状が進んでいるのは目に明らかだった。  死期が近い事も家主の柴田平五郎から聴いて居た。  この期に及んで辛い話を聞かせるのは忍びない。  土方は相変わらずの仏頂面で答えた。 「うるせぇ餓鬼だな。甲府は新政府軍に先を越されたんだよ。  それ以上聞くんじゃねぇ。腸が煮えくりけぇるだろうが」 「そうなんですか。まあ、土方さんはのろまですからね」  依然と変わらぬ減らず口に、思わず拳骨を落としそうになった土方だったが、その手が止まる。  それに沖田が寂しそうに小さく笑った。 「で、次は何処に行くんです?」 「まだ決まっちゃねぇが、宇都宮辺りだろうよ」 「宇都宮ですか。ねぇ、土方さん。  寝てるのも飽きちゃったんですよね。  私も連れてって下さいよ」  無駄だと知りながらも沖田はそう口にせずには居られなかった。  最後まで精一杯生きると、秩が亡くなった時に決めた。  それなのに床の上で死を待つしかない自分が歯痒かった。  せめて仲間の傍で戦って死にたかった。  動けなくても、仲間の弾除けくらいにはなれると思った。  沖田は土方を見る。その頭が縦に動く事は無いと分かって居ても、心の中で懇願した。
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