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その休日、僕は一通のメールに起こされた。
ある日曜日の朝だった。
『面白いモノ見せてあげるから、九時に例の場所へ来なさい。遅れたら死ね』
なんとも一方的な文面。だがその傍若無人さも、ここまで極まればいっそ潔い。殺す、ではなく死ね、という辺りが、なんとも彼女らしいと僕は思う。
枕元に置いてある、確か千五百円ほどした目覚まし時計を見る。大音量のアラームが売りらしいその時計は、けたたましすぎて家族には不評だったし、朝に弱い僕は結局、この目覚ましでも起きられない。
それでも、メールの着信には反応して覚醒する僕は、まったく健気ではなかろうか。
うん。そろそろ報われてもいいと思う。
時刻は午前七時前。休日の僕には珍しい、健康的な起床だった。約束の時間までは、移動にかかる三十分を計算に入れてもまだ若干の猶予がある。
「……とりあえず、顔を洗って朝食にしよう」
脳の覚醒を促すように、あえて口に出して僕は言った。
朝はどうにも頭の回転が鈍い。昨日は割と早い時間に寝床へ就いたはずだが、それでもこれなのだからもう始末に負えない。
重たい身体を引き摺るように、僕は二階の自室から、階下の居間へと足を向けた。
父親と二人暮らしの家は、二人で住むには広すぎる。
まして一人ならなおさらだ。多忙な父は家にいることが少なく、今日も朝から出かけているらしい。いや、ともすれば昨日の夜から帰ってきていないのかもしれなかった。
まったく頭が上がらない。
誰もいない廊下に、床の軋みを響かせながら、僕は今も仕事に勤しんでいるだろう父へと感謝の念波を送る。
問題は僕におそらくテレパシーの才能がないだろうということだが、なに、その程度の問題など、親子の絆を前にしてはないも同然である。
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