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などという阿呆な思考は措いて。
ダイニングまで降りた僕は、洗顔ののち、冷蔵庫からありあわせの食材を取り出して調理にかかる。
時間的に、そう凝った料理に挑戦している暇はないだろう。卵とベーコンを適当に炒め、お湯を沸かしてインスタントのスープを作る。ここまで手抜きだと、もはや料理と呼ぶのはおこがましいものがあるが、呼ばれた以上は仕方ない。
主食は買い置きの食パンにした。本当は和食派なのだが、そのせいで洋食派の父とは論争があったりなかったりなのだが――まあ、たまにはこんな朝もいいだろう。
※
食べ始めて、そして食べ終わる。
別段、僕は大食いでも早食いでもないが、それでも大した時間はかからなかった。
日常というルーチンワークを、こなすように生きていく人類。そこに果たして意味があるのか――なんて問うと、ちょっと自意識過剰な中学生みたいなきらいがあるけれど。
実際、贅沢な悩みではあるのだろう。贅沢で、だからこそ尊い葛藤。
変わりのない日々こそが何よりも大切であるとか。平凡な日常ほど貴重なものはないだとか。ありきたりなフレーズではあるけれど、その実、それなりに含蓄のある言葉なのだとも思う。
食器を洗い、歯を磨き、身支度を整えて。ついでに洗濯なんかもして。
時刻は八時二十分。
僕は家を出る。戸締まりをして、整備不良の古い自転車を漕ぎ出した。ぎしぎしと重たいペダルでも、爽快な朝には悪くないBGMだ。
それなりに気分はいい。
早起きは三文の得、とはなるほどよく言ったものだと思う。この場合、物質的な三文よりも、あるいは精神的な充足のほうが価値としては上なのかもしれなかった。
もっとも。
僕にとっていちばん大きいのは、これから彼女に会えるという、その一点にあるのだけれど。
浮かれているのだ。要するに。
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